子どもたちが中学生や高校生くらいになると、「アルバイトをしてみたい」と言い出すことがあります。
正直なところ、親としては少し心配になりますよね。勉強がおろそかにならないだろうか。困った人に利用されないだろうか。責任を持って、きちんと続けられるだろうか。
私も親として、同じようなことを考えました。
それでも私は、学校の決まりや生活に無理のない範囲で、ある程度の年齢になったらアルバイトを経験することは、とても良いことだと思っています。
それは、単にお金を稼ぐためではありません。働くことを通して、お金だけではない大切なことを学べると思うからです。
お金はどこから来るの?
子どもの頃は、お金はお財布から出てくるもののように見えます。
スーパーへ行けば、食べ物を買ってもらえる。学校へ行けば、勉強するための教科書や文房具がある。欲しいものをお願いすれば、買ってもらえることもある。
けれど、そのお金はどこから来ているのでしょうか。
多くの場合、お父さんやお母さんなど、家族の誰かが働いて得たお金です。
当たり前のことのようですが、子どものうちは、それをなかなか実感できません。お金には限りがあること。そして、お金は誰かに価値を届けたり、仕事をしたりした対価として受け取るものだということ。
その意味を知るためにも、自分で働いてみる経験は大切なのだと思います。
小さな仕事から学ぶ国もある
アメリカやカナダなどでは、子どもがある程度の年齢になると、ベビーシッターや犬の散歩、庭の手入れなど、身近な人の小さな仕事を引き受けることがあります。
特にベビーシッターについては、子どもの世話や安全、応急手当、責任ある行動などを学ぶ、十代前半向けの講習もあります。
もちろん、国や地域によって決まりは異なりますし、幼い子どもに無理に働かせるという話ではありません。
大切なのは、年齢に合った仕事を任され、その責任を果たすことで、お金を受け取るまでの過程を経験することです。
誰かから仕事を頼まれる。約束した時間を守る。相手が安心できるように、きちんと役割を果たす。
そして、「助かったよ」「ありがとう」という言葉とともに、お金を受け取る。
そうした経験を通して、子どもはお金の計算だけではなく、責任や信頼、人の役に立つ喜びまで学んでいくのだと思います。
日本では、子どもがお金を受け取って仕事をする機会は、それほど多くないかもしれません。
だからこそ、家のお手伝いや地域での活動など、身近なところから「誰かの役に立つ経験」をさせることにも、大きな意味があるのではないでしょうか。
初めて働いた日のこと
私自身、初めて働いてお給料をもらった日のことを、今でも覚えています。
高校一年生の夏休みでした。我が家は決して裕福ではありませんでしたが、親からアルバイトをするように言われたわけではありません。
きっかけは、私より八歳年下の双子の弟たち。二人が、自分たちの身長には小さくなりすぎた自転車に乗っているのを見て、「もう少し大きな自転車を、お揃いで買ってあげたい」と思ったのです。
夏休みに精いっぱい働きました。
けれど、二人に格好の良い自転車を一台ずつ買えるほどのお金には、まだ足りませんでした。
それでも、「もう少し頑張れば、弟たちの誕生日には喜ぶ顔が見られるかもしれない」と思うと、嬉しかったことを覚えています。
何より、自分で働いて得たお金は、簡単には使えませんでした。
それまで何気なく使っていたお金の見え方が、その時から変わったのです。
お金は「ありがとう」とつながっている
アルバイトを経験すると、お金は何もしなくても受け取れるものではないことが分かります。
時間を使う。体を動かす。決められた仕事をする。誰かの役に立つ。
その結果として、お金を受け取ります。
働いて得たお金は、「誰かの役に立った証」でもあるのだと、私は実感しました。
私は子どもたちにも、「お金は、ただの紙ではなく『ありがとう』とつながっているものなんだよ」と伝えてきました。
もちろん、働くことは楽しいことばかりではありません。責任の少ない、楽な仕事がよいと思うこともあるでしょう。
けれど、どのような仕事にも、引き受けた以上は果たすべき役割があります。
楽をして簡単に大金を得ようとしたり、誰かを困らせて自分だけが得をしたりすることは、まっとうなお金の得方ではありません。
働く経験を通して、そのことも少しずつ理解してもらえたように思います。
働くと見える世界が変わる
コンビニで買い物をする。レストランで食事をする。私たちは、普段当たり前のようにお店を利用しています。
けれど、自分が実際に働いてみると、その見え方が変わります。
レジを間違えずに扱う大変さ。相手に合わせて接客する難しさ。お店を清潔に保つための掃除。商品を並べ、足りないものを補充する手間。
表からは見えなかった仕事に気づくようになります。
自分が働いてみたことで、ほかの場所で働いている人への感謝も、自然に生まれてきます。
勉強の意味に気づくこともある
働き始めてから、勉強の大切さに気づく子もいます。
社会に出ると、学校で学んでいたことが、思っていた以上に役立つからです。
お金を間違えずに扱うための計算力。
説明や注意書きを理解するための読解力。
相手に分かりやすく伝えるための会話力。
決められた時間を守り、行動する力。
「どうして勉強しないといけないの?」と思っていたことの答えが、働く経験の中で少し見えてくることもあります。
お金の価値を実感する
アルバイトを経験すると、百円の重みが変わります。五百円のありがたさも変わります。
何分、あるいは何時間働けば、この商品を買えるのか。どれくらい頑張れば、欲しいものが手に入るのか。
お金を、自分が働いた時間や労力に置き換えて考えられるようになります。
すると、買う前に少し立ち止まることも増えます。
本当に必要だろうか。働いて得たお金を、これに使って満足できるだろうか。そう考えることで、自然と無駄遣いが減ることもあるのです。
親として伝えたいこと
私は子どもたちに、「たくさん稼げる人になってほしい」というよりも、「誰かの役に立ち、価値を生み出せる人になってほしい」と思っています。
誰かを喜ばせる。
困っている人を助ける。
必要とされる仕事をする。
その積み重ねの結果として、お金を受け取ることができます。
若いうちにその仕組みを体感できることは、将来に向けた大きな財産になると思うのです。
誰の役に立ったお金だろう
アルバイトをしているなら、もらったお給料で何を買うかだけではなく、「私は誰の役に立ったから、このお金をいただけたのだろう」
と考えさせる機会を作ってください。
まだアルバイトができる年齢でないなら、家のお手伝いでも構いません。
家族のために食器を片づける。洗濯物をたたむ。部屋を掃除する。小さなことでも、誰かの役に立つ経験になります。
お金の本当の価値は、使う時よりも、働いて得る時の方がよく見えることがあります。
そして働くことは、お金を得るためだけではありません。
自分の役割を果たすこと。
約束を守ること。
人に喜んでもらうこと。
社会の一員として、誰かとつながること。
そうしたことを学ぶ、大切な経験でもあります。
お金を手にするまでに、誰かの時間や努力があることを早くから知っていれば、受け取るものを当たり前だとは思わなくなるでしょう。
自分を支えてくれている人への感謝も、自然と生まれるのではないでしょうか。
働く経験は、お金の価値だけではなく、自分が誰かの役に立てる喜びも教えてくれるのだと思います。
