妊婦健診や出産には、まとまったお金がかかります。
そこで気になるのが、「妊娠や出産にかかった費用は、医療費控除の対象になるのだろうか」ということではないでしょうか。
正常な妊娠や出産には、原則として健康保険が適用されません。しかし、健康保険が使えない費用であっても、医療費控除の対象になるものがあります。
妊婦健診の自己負担分や分娩費用、出産のための入院費用などは、医療費控除に含められる可能性があります。一方で、赤ちゃん用品や里帰りの交通費などは対象になりません。
この記事では、妊娠・出産にかかった費用のうち、何が医療費控除の対象になり、何が対象外になるのかを整理します。
※本記事は、2026年7月16日時点で確認できる国税庁の公表資料をもとに作成しています。個別の事情によって取り扱いが異なる場合がありますので、実際の申告時には国税庁、税務署、税理士などへご確認ください。
医療費控除とは?
医療費控除は、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得から一定額を差し引ける制度です。
医療費そのものが返金される制度ではありません。医療費控除によって課税対象となる所得が少なくなり、その結果、すでに納めた所得税の一部が戻ったり、翌年度の住民税が軽くなったりすることがあります。
医療費控除額は、基本的に次のように計算します。
実際に支払った医療費- 保険金などで補てんされた金額- 10万円
その年の総所得金額等が200万円未満の場合は、10万円ではなく、総所得金額等の5%を差し引きます。
医療費控除として所得から差し引ける金額の上限は、200万円です。
ただし、計算によって出た医療費控除額が、そのまま現金で戻ってくるわけではありません。
実際に軽減される税額は、その人の所得や所得税率などによって変わります。
妊婦健診の自己負担分は対象になる
国税庁は、妊娠と診断された後に受ける定期健診や検査の費用について、原則として医療費控除の対象になると案内しています。
妊婦健診には自治体の公費助成がありますが、助成券を使っても自己負担が発生することがあります。医療費控除に含められるのは、実際に自分で支払った部分です。
たとえば、妊婦健診の費用が1万円で、助成券によって8,000円が補われ、窓口で2,000円を支払った場合は、原則として2,000円が対象になります。助成された金額まで医療費として計上することはできません。
出産や入院にかかった費用も対象
正常分娩は原則として健康保険の対象外ですが、分娩費用や入院費用は、医療費控除の対象になります。主に次のような費用が考えられます。
– 分娩費用
– 出産のための入院費用
– 助産師による分娩介助の費用
– 病院で提供された入院中の食事代
– 妊娠や出産に伴う診察・検査費用
– 帝王切開などの治療費
病院から一括で請求される出産費用には、医療費控除の対象になるものと、ならないものが混ざっている場合があります。
領収書だけで内訳が分かりにくい場合は、診療明細書や請求明細も一緒に保管しておきましょう。
通院のための電車やバス代も対象
妊婦健診や診察のために利用した電車やバスなどの公共交通機関の費用も、医療費控除の対象になります。交通系ICカードを使用すると、紙の領収書が残らないこともあります。その場合は、
– 受診日
– 利用した交通機関
– 出発地と到着地
– 運賃
– 受診した医療機関
を家計簿やメモ、表計算ソフトなどに記録しておきましょう。国税庁も、領収書がない通院費については、実際にかかった金額を説明できるよう記録しておくよう案内しています。
出産時のタクシー代は対象になることがある
陣痛や破水などにより、電車やバスを利用することが難しく、出産のためにタクシーで医療機関へ向かった場合、そのタクシー代は医療費控除の対象になることがあります。
一方、公共交通機関を利用できる状況で、便利だからという理由だけでタクシーを使った場合は、原則として対象になりません。判断に迷う場合に備えて、利用した日や理由も記録しておくとよいでしょう。
医療費控除の対象にならない費用
妊娠や出産に関係する支出であっても、すべてが医療費控除の対象になるわけではありません。主な対象外の費用を見ていきましょう。
里帰り出産のための交通費:実家で出産するために帰省した際の、新幹線代、飛行機代、ガソリン代などは、医療機関を受診するための直接的な交通費とはみなされません。そのため、原則として医療費控除の対象外です。
自家用車のガソリン代や駐車料金:妊婦健診や通院に自家用車を使った場合でも、ガソリン代や駐車料金は医療費控除の対象になりません。
入院のために購入した日用品:入院用のパジャマ、洗面用具、スリッパ、タオルなど、身の回り品の購入費用は対象外です。病院へ支払った医療費ではなく、日常生活に必要な品物の購入費と考えられるためです。
希望して利用した個室の差額ベッド代:本人や家族の希望だけで個室を利用した場合の差額ベッド代は、原則として医療費控除の対象になりません。ただし、治療上の必要性など、個別の事情によって扱いが異なる可能性があります。
外食や出前の費用:病院が入院費の一部として提供する食事代は、一般的に医療費控除の対象です。一方、入院中に自分で注文した出前や、家族が買ってきた食事などは対象になりません。
赤ちゃんを迎えるための準備費用:次のような赤ちゃん用品は、医療費控除の対象にはなりません。
– ベビー服や肌着
– おむつやおしりふき
– ベビーベッドや寝具
– ベビーカー
– 抱っこひも
– チャイルドシート
– 哺乳瓶や授乳用品
出産に伴って必要になるものではありますが、医師による診療や治療、分娩に直接必要な費用ではないためです。
出産育児一時金は医療費から差し引く
医療費控除を計算するときは、支払った医療費から、保険金などで補てんされた金額を差し引きます。
出産に関して注意したいのが、出産育児一時金です。出産育児一時金として原則50万円を受け取った場合は、出産費用からその金額を差し引いて計算します。
たとえば、出産費用が60万円で、出産育児一時金が50万円支給された場合、医療費控除の計算に使う出産費用は、原則として差額の10万円です。
出産費用が45万円で、出産育児一時金が50万円だった場合、余った5万円を、妊婦健診や歯科治療など別の医療費から差し引く必要はありません。保険金などは、その給付の対象になった医療費を上限として差し引きます。
民間の医療保険の給付金にも注意
帝王切開や入院などにより、民間の医療保険から入院給付金や手術給付金を受け取った場合も、その医療費を補てんする金額は差し引く必要があります。
ただし、給付金が対象となった医療費を上回った場合でも、余った分を別の妊婦健診費用などから差し引く必要はありません。どの給付金が、どの医療費に対応しているのかを分けて整理しておきましょう。
出産手当金は差し引かなくてよい
名前が似ているため混同しやすいのですが、「出産育児一時金」と「出産手当金」は性質が異なります。出産育児一時金は、出産費用を補うための給付なので、医療費から差し引きます。
一方、出産手当金は、産休中に給与を受け取れない期間の生活を支えるための給付です。医療費そのものを補てんする給付ではないため、医療費控除の計算から差し引く必要はありません。
医療費控除の計算例
たとえば、ある年に次の費用を支払ったとします。
– 妊婦健診の自己負担分:8万円
– 出産・入院費用:60万円
– 通院のための電車・バス代:2万円
支払った医療費の合計は、70万円です。出産育児一時金として50万円を受け取った場合は、次のように計算します。
70万円-50万円-10万円=10万円
この場合、医療費控除額は10万円です。ただし、この10万円がそのまま戻ってくるわけではありません。
10万円を所得から差し引き、その人の所得税率などに応じて、所得税や住民税の負担が軽くなります。また、総所得金額等が200万円未満の場合は、10万円ではなく、総所得金額等の5%を差し引いて計算します。
家族の医療費をまとめられる
医療費控除は、自分の医療費だけでなく、「生計を一にする」配偶者や家族のために支払った医療費もまとめられます。
たとえば、夫が妻の妊婦健診費や出産費用を支払った場合、夫が自分の医療費と合わせて申告できることがあります。共働き夫婦の場合でも、必ずしも別々に計算する必要はありません。ただし、医療費控除を申告するのは、原則として実際に医療費を支払った人です。
夫婦のどちらが支払ったのか分かるように、領収書や口座、クレジットカードの支払いを整理しておきましょう。
年をまたぐ場合は支払った年ごとに申告する
妊娠と出産は、年をまたぐことがあります。
たとえば、2026年中に妊婦健診を受け、2027年に出産した場合は、2026年に支払った費用と2027年に支払った費用を分けて計算します。
医療費控除は、診察を受けた年ではなく、実際に医療費を支払った年が基準です。同じ妊娠・出産に関する費用でも、年をまたぐと一緒には計算できないため注意しましょう。
領収書と交通費の記録を残しておこう
医療費控除を受けるには、確定申告書と一緒に「医療費控除の明細書」を提出します。医療機関の領収書そのものを確定申告書に添付する必要はありません。ただし、税務署から確認を求められることがあるため、領収書は原則として5年間保管します。
妊娠が分かったら、医療費控除を申告するかどうかがまだ決まっていなくても、
– 医療機関の領収書
– 診療明細書
– 薬局の領収書
– タクシーの領収書
– 公共交通機関の利用記録
– 出産育児一時金の支給額が分かる書類
– 民間保険の給付金額が分かる書類
を一つのファイルなどにまとめておくと安心です。後から一年分を探し集めるのは、赤ちゃんのお世話をしながらでは、なかなか大変です。
対象か迷ったら、捨てずに残しておこう
妊娠や出産にかかった費用の中には、医療費控除の対象になるか判断しにくいものもあります。その場で分からないからといって、領収書を捨ててしまう必要はありません。まずは保管し、確定申告の時期に、医療費控除の対象になるものと対象外のものを分ければ大丈夫です。
妊娠・出産には、健診費用や分娩費用だけでなく、交通費や入院費用など、細かな支出も重なります。一つひとつは小さな金額でも、家族全員の医療費と合わせると、医療費控除を利用できる可能性があります。
税金がどれくらい戻るかだけに目を向けるのではなく、支払ったお金を記録し、利用できる制度を正しく使うことが大切です。
参考にした主な公的資料
– 国税庁「医療費を支払ったとき(医療費控除)」
– 国税庁「医療費控除の対象となる出産費用の具体例」
– 国税庁「妊婦の定期検診のための費用」
– 国税庁「医療費控除の対象となる入院費用の具体例」
– 国税庁「医療費控除の明細書」
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