産休や育休に入ると、健康保険料と厚生年金保険料は、一定の要件を満たすことで免除されます。そのため、「住民税も支払わなくてよいのでは」と思う人もいるかもしれません。
しかし、住民税は、産休・育休中であっても原則として支払いが続きます。住民税は、今の収入ではなく、前年の所得をもとに計算されるからです。
育休に入って給与がなくなっても、前年に働いて給与を受け取っていれば、その所得に対する住民税を支払わなければなりません。また、給与が支払われなくなると、それまで給与から天引きされていた住民税を、自分で納付しなければならないことがあります。
この記事では、産休・育休中も住民税がかかる理由、支払い方法、翌年度の住民税がどう変わるのかについて、分かりやすく解説します。
※本記事は、2026年7月16日時点の制度をもとに作成しています。住民税の納付方法や納期限、減免・猶予制度は自治体によって異なります。実際の取り扱いについては、勤務先やお住まいの市区町村へご確認ください。
育休中も住民税は原則として支払う
育休中も、前年に一定の所得があれば住民税はかかります。これは、住民税が「前年所得課税」という仕組みになっているためです。
たとえば、2026年度の住民税は、2025年1月1日から12月31日までの所得をもとに計算されます。給与所得者の場合、原則として2026年6月から2027年5月までの12回に分けて、毎月の給与から差し引かれます。
2026年の途中から産休や育休に入り、現在の給与がなくなっても、2025年に働いて得た所得に対する住民税がなくなるわけではありません。
そのため、休業に入り収入が減った時期に、前年の収入をもとにした税金の支払いが続くことになります。
社会保険料とは仕組みが違う
産休・育休中の健康保険料と厚生年金保険料は、勤務先が必要な手続きを行うことで免除されます。一方、住民税には、産休や育休を取得したことだけを理由とした一律の免除制度はありません。
つまり、休業中の主な負担は、次のように分かれます。
- 健康保険料:一定の要件を満たせば免除
- 厚生年金保険料:一定の要件を満たせば免除
- 住民税:原則として支払いが続く
「社会保険料が免除される」という説明を、「給与から差し引かれていたものが、すべて免除される」と受け取らないようにしましょう。
住民税はいつの所得をもとに計算される?
住民税は、前年1月1日から12月31日までの所得をもとに、その翌年度に課税されます。給与所得者の場合は、通常、その税額を6月から翌年5月までの給与から天引きします。
たとえば、2026年10月から育休に入る場合を考えてみましょう。
2026年6月から2027年5月まで
2025年中の所得をもとにした住民税を支払います。2025年に通常どおり働いていたのであれば、育休に入った後も、休業前と同程度の住民税が残っている可能性があります。
2027年6月から2028年5月まで
2026年中の所得をもとに住民税が計算されます。2026年は10月まで給与を受け取っているため、前年より所得は減っていても、住民税がゼロになるとは限りません。
2028年6月以降
2027年のほぼ一年間を育休で過ごし、課税対象となる給与などをほとんど受け取っていなければ、2028年度の住民税は大きく下がる可能性があります。ただし、育休中に賞与や勤務先からの給与、ほかの課税所得を受け取っている場合は、その所得も住民税の計算に影響します。
住民税が下がるのは、育休に入った直後ではなく、所得が減った年の翌年度である点が重要です。
産休中も住民税はかかる
住民税の扱いは、育休中だけでなく、産前産後休業中も同じです。産休に入って給与が支払われなくなったとしても、前年所得に対する住民税は原則として支払いが続きます。
産休中に受け取る出産手当金は、健康保険から支給される非課税の給付です。課税所得には含まれないため、翌年度の住民税を計算する際の所得にも含まれません。
ただし、出産手当金が非課税であることと、すでに決定している前年所得分の住民税を支払わなくてよいことは、別の話です。
育児休業給付等にも住民税はかからない
育休中に雇用保険から支給される育児休業給付等は、非課税所得です。給付金そのものに所得税や住民税がかかることはなく、翌年度の住民税を計算するときの収入にも含まれません。
たとえば、育休中の一年間に給与を受け取らず、育児休業給付だけを受け取った場合、給付金の金額を給与所得として住民税が計算されるわけではありません。ただし、前年の給与をもとにすでに課税されている住民税については、引き続き支払いが必要です。
住民税は通常、給与から天引きされている
会社員の住民税は、通常、勤務先が毎月の給与から差し引き、本人に代わって自治体へ納付します。この方法を「特別徴収」といいます。
特別徴収では、年間の住民税を6月から翌年5月までの12回に分けて支払うため、一回当たりの負担が比較的小さくなります。
たとえば、年間の住民税が12万円なら、単純に考えると、毎月約1万円ずつ給与から差し引かれます。しかし、育休に入って給与が支払われなくなると、勤務先は給与から住民税を差し引くことができません。そのため、納付方法が変わることがあります。
育休中の住民税はどうやって支払う?
育休中の住民税の取り扱いは、勤務先の給与制度や休業期間によって異なります。主な方法は次のとおりです。
給与や賞与から引き続き差し引く
産休・育休中にも一部の給与や賞与が支給される場合は、そこから住民税を差し引くことがあります。ただし、支給額より住民税額の方が多い場合などは、給与から差し引くことができません。
自分で納付する普通徴収へ切り替える
給与がなく、勤務先で特別徴収を続けられない場合は、本人が直接納める「普通徴収」へ切り替えることがあります。自治体の公式案内でも、休職中や育児休業中で給与が少なく、特別徴収できない場合には、普通徴収の対象として手続きを行うことが示されています。普通徴収へ切り替わると、自治体から本人の自宅へ納税通知書や納付書が届きます。
勤務先の指定方法で支払う
勤務先によっては、普通徴収へ切り替えず、本人が毎月の住民税相当額を会社へ振り込み、会社が自治体へ納付する運用をしていることもあります。これは法律で全国一律に決まった支払い方法ではなく、勤務先独自の取り扱いです。産休や育休に入る前に、人事・総務担当者へ、住民税をどのように支払うのか確認しておきましょう。
普通徴収では一回の支払額が大きくなることがある
普通徴収は、一般に年4回程度の納期に分けて支払います。一方、給与からの特別徴収は、原則として年12回です。年間の住民税が12万円の場合で考えてみましょう。
特別徴収で12回払いなら、毎月約1万円です。
普通徴収で4回払いなら、一回当たり約3万円になります。
年間で支払う総額は同じでも、一度に支払う金額が大きくなるため、納付書が届いたときに負担を重く感じることがあります。また、年度の途中で普通徴収へ切り替わった場合は、残っている納期の回数が少なくなり、一回当たりの納付額がさらに大きくなることもあります。
納付書が届いたら確認したいこと
自治体から納付書が届いたら、そのまま保管せず、次の点を確認しましょう。
- 住民税の年度
- 年間の税額
- すでに給与から支払った金額
- 今後自分で支払う残額
- 納付回数
- 各回の納期限
- 利用できる支払い方法
自治体によっては、金融機関やコンビニエンスストアのほか、口座振替、スマートフォン決済、クレジットカードなどを利用できる場合があります。対応している方法や手数料は自治体によって異なるため、納税通知書の案内を確認してください。
住民税が二重に請求されたように見えることもある
育休へ入る直前まで給与から住民税が差し引かれていたのに、その後、自宅へ納付書が届くと、「同じ税金を二重に請求されているのでは」と不安になるかもしれません。
普通徴収へ切り替わった場合に届く納付書は、一般に、給与からまだ差し引かれていない残りの税額です。
勤務先は、給与からの特別徴収を続けられなくなった場合、その旨を自治体へ届け出ます。自治体は届出に基づいて、未徴収分を本人納付へ切り替えます。ただし、勤務先の届出と自治体の処理には時間がかかることがあります。
給与明細の住民税額と納税通知書を確認し、金額が合わないと感じた場合は、勤務先か自治体の税務窓口へ問い合わせましょう。
復職したら給与天引きへ戻せる?
育休から復職し、給与の支払いが再開した場合は、普通徴収から特別徴収へ戻せることがあります。一般的には、本人から勤務先へ申し出て、勤務先が自治体へ切替届を提出します。
ただし、すでに納期限が過ぎている分や、本人が納付済みの分は、給与天引きへ切り替えられないことがあります。復職後に自動的に給与天引きへ戻るとは限らないため、最初の給与明細を確認しましょう。
育休中の住民税を簡単に見積もる方法
これから産休や育休に入る場合は、直近の給与明細を見ると、おおよその負担を把握できます。給与明細に記載されている「住民税」の金額を確認し、育休に入った後も翌年5月までは、同程度の金額が続く可能性があると考えておきます。
たとえば、毎月の住民税が1万5,000円で、育休開始後に8か月分が残っている場合は、
1万5,000円×8か月=12万円
が一つの目安です。実際の残額は、年度途中の税額変更や勤務先での徴収状況によって異なります。産休前に、勤務先へ次の二つを確認すると、より正確に見積もれます。
- 育休開始時点で住民税はいくら残っているか
- 残額をどのような方法で支払うか
住民税のためのお金を分けておこう
出産手当金や育児休業給付等が振り込まれると、すべて生活費として使えるように感じるかもしれません。しかし、住民税が給与天引きから普通徴収へ変わると、後から数万円単位の納付書が届くことがあります。
給付金を受け取ったら、その一部を住民税用として別に取り分けておくと安心です。たとえば、
- 住民税
- 赤ちゃんの医療費や日用品
- 給付金が振り込まれるまでの生活費
- 急な通院や交通費
など、目的ごとに口座や家計簿上で分けておくと、使ってよいお金が分かりやすくなります。
育休の翌年度は住民税が下がることがある
育休によって給与所得が減れば、その翌年度の住民税も下がる可能性があります。
たとえば、2026年中の給与が育休によって少なくなれば、2026年の所得をもとに計算する2027年度の住民税は、通常勤務を続けた場合より低くなる可能性があるのです。
さらに、2027年の一年間をほぼ育休で過ごし、育児休業給付等だけを受け取った場合は、2028年度の住民税が大きく下がったり、所得要件によっては非課税になったりすることも考えられます。ただし、住民税の非課税基準は、本人の所得だけでなく、扶養親族の人数や自治体の基準などによっても異なります。
賞与、副業、不動産所得などがある場合も税額に影響するため、「育休中だから翌年は必ず住民税がゼロになる」とは限りません。
医療費控除などで住民税が軽くなることもある
妊娠や出産をした年は、妊婦健診の自己負担分、分娩費用、通院交通費などを含め、家族全体の医療費が多くなることがあります。一定の条件を満たして医療費控除を申告すると、所得税が還付されるだけでなく、翌年度の住民税が軽くなる可能性があります。
医療費控除については、「妊娠・出産費用は医療費控除の対象?」で詳しく解説しています。
妊婦健診や出産に関する領収書、交通費の記録などは、捨てずに保管しておきましょう。
支払いが難しいときは放置せず相談する
育休中は収入が減るうえ、給付金の振り込みまで時間がかかることがあります。そこへ住民税の納付書が届き、期限までの支払いが難しいこともあるでしょう。その場合は、納期限を過ぎるまで放置せず、早めに市区町村の納税窓口へ相談してください。
一時に納付することが難しいと自治体が認めた場合、申請により、一定期間の徴収猶予を受けられることがあります。育児休業中について、休業期間中の1年以内を目安に納付が猶予される場合があることを案内している自治体もあります。
ただし、育休を取得しているだけで自動的に猶予されるわけではありません。家計の状況や資産、納付が難しい事情などを確認したうえで判断されます。
自治体によっては分割納付などの相談に応じていることもあるため、納付書に記載された窓口へ連絡しましょう。
産休・育休に入る前に確認したいこと
産休・育休へ入る前に、勤務先へ次の点を確認しておくと安心です。
- 休業中も住民税の特別徴収を続けるか
- 給与から差し引けなくなった場合、普通徴収へ切り替えるか
- 自分で会社へ振り込む必要があるか
- 休業開始時点で住民税がいくら残っているか
- 納付書はどこへ届くか
- 復職後は特別徴収へ自動的に戻るか
- 休業中に賞与や給与が支給されるか
あわせて、直近の給与明細と住民税の決定通知書を確認し、毎月の住民税額を把握しておきましょう。
今の収入だけでなく、少し先の支払いも見ておこう
育休中も住民税がかかると聞くと、「収入が減るのに、税金まで払うのか」と負担に感じるかもしれません。住民税は、現在の暮らしに対してその場でかかる税金ではなく、前年に得た所得に対して、少し遅れて支払う税金です。そのため、育休へ入った直後は、収入が減っているのに住民税があまり変わらないという、家計にとって厳しい時期が生じることがあります。
けれど、いつまで、いくら支払うのかが分かれば、突然届く納付書に慌てずにすみます。産休や育休に入る前に、住民税の残額を確認し、給付金や貯蓄の一部を支払い用に分けておきましょう。
お金の流れをあらかじめ見通しておくことは、節約のためだけではありません。新しい家族との時間を、お金の心配だけに追われずに過ごすための準備でもあります。
参考にした主な公的資料
- 大阪市「個人市民税の概要」
- 大阪市「特別徴収税額の通知および納入について」
- 横浜市「個人の市民税・県民税について」
- 横浜市「個人住民税の特別徴収に関するよくあるご質問」
- 厚生労働省「育児休業等給付に関するQ&A」
- 厚生労働省「育児休業、産後パパ育休や経済的に支援します」
- 国税庁「配偶者控除に関するQ&A」
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