子どもにかかるお金はいくら?妊娠・出産から大学まで

第1章‐12妊娠前に見直しておきたい保険と家計

妊娠や出産を考え始めると、「医療保険に入っておいた方がよいのだろうか」「子どもが生まれたら、生命保険はいくら必要になるのだろう」
「産休や育休で収入が減っても、生活していけるだろうか」と、お金や保険について気になり始める人も多いでしょう。

妊娠前は、家計や保険を見直す一つのよいタイミングです。ただし、心配だからといって、すぐに新しい保険へ加入したり、保障額を大きく増やしたりする必要はありません。

日本には、健康保険、高額療養費制度、出産育児一時金、出産手当金、育児休業等給付、遺族年金など、妊娠・出産や万一のときに利用できる公的な制度があります。

金融庁も、民間保険は公的保険を補う役割があるため、まず公的保障の内容を理解し、そのうえで必要に応じて加入することが重要だと案内しています。

この記事では、妊娠前に確認しておきたい家計の状況と、医療保険や生命保険を見直すときの考え方を、順番に整理します。

※本記事は、2026年7月16日時点の制度をもとに作成しています。公的制度や保険商品の内容、加入条件は変更される場合があります。実際に見直す際は、勤務先、加入している健康保険、保険会社などで最新情報をご確認ください。

保険より先に家計を確認しよう

妊娠や出産に備えるとき、最初に考えたいのは「どの保険に入るか」ではありません。まずは、現在の家計で、

  • 毎月いくら入ってくるのか
  • 毎月いくら使っているのか
  • 産休や育休で収入がどのくらい減るのか
  • 出産前後にまとまった支出がいくらあるのか
  • 手元にすぐ使える貯蓄がいくらあるのか

を確認することが大切です。

保険は、起こるかどうか分からない大きな損失に備えるためのものです。一方、妊婦健診の自己負担分や赤ちゃん用品、出産費用と一時金との差額など、ある程度予想できる支出は、基本的に貯蓄で準備します。

保険で備えるお金と、現金で準備するお金を分けて考えると、必要以上に保険料を支払うことを防ぎやすくなります。

まずは毎月の生活費を把握する

産休や育休に入ると、世帯の収入が一時的に減ることがあります。そのときに必要となる金額を考えるには、現在の毎月の生活費を把握しなければなりません。

最初から細かく家計簿をつける必要はありません。まずは、直近3か月程度の銀行口座やクレジットカードの明細を見ながら、次のように分けてみましょう。

毎月ほぼ変わらない固定費

  • 家賃や住宅ローン
  • 水道光熱費の基本料金
  • 通信費
  • 保険料
  • 自動車ローンや駐車場代
  • サブスクリプション
  • 奨学金やその他の返済

月によって変わる生活費

  • 食費
  • 日用品費
  • 交通費
  • 医療費
  • 交際費
  • 衣服費
  • 娯楽費

産休・育休中も続く支出と、働き方が変わることで減る支出、新たに増える支出を分けて考えます。通勤費や外食費は減るかもしれませんが、おむつやミルク、光熱費、宅配サービスなどは増える可能性があります。

妊娠から出産までの一時的な支出を分けて考える

毎月の生活費とは別に、妊娠から出産までに発生する一時的な支出も整理します。たとえば、次のようなお金です。

  • 妊婦健診の自己負担分
  • 通院交通費
  • マタニティ用品
  • 出産する医療機関への予約金
  • 出産育児一時金を超える自己負担額
  • 里帰り出産にかかる交通費や生活費
  • 赤ちゃん用品
  • 出産後の家事支援や産後ケア
  • 内祝いなどの交際費

妊娠・出産にかかるお金を、毎月の生活費と同じ財布で考えると、何のためにいくら必要なのか分かりにくくなります。「毎月の暮らしに使うお金」と「妊娠・出産のために一時的に使うお金」を分けておくと、準備する目標額を考えやすくなります。

公的な支援で受け取れるお金を確認する

支出だけを見ると、妊娠や出産には大きなお金が必要に感じます。しかし、実際には複数の公的支援があります。主な制度には、次のようなものがあります。

  • 妊婦のための支援給付
  • 出産育児一時金
  • 出産手当金
  • 育児休業給付金
  • 出生後休業支援給付金
  • 産休・育休中の社会保険料免除
  • 児童手当
  • 育児時短就業給付金

2025年4月からは、妊娠時と妊娠後期以降に経済的支援を行う「妊婦のための支援給付」が制度化されています。また、出生後休業支援給付金や育児時短就業給付金など、仕事と育児を支える制度も拡充されています。

厚生労働省の「産休・育休中の経済的支援 かんたん試算ツール」では、出産育児一時金や育児休業給付、社会保険料免除などのおおよその金額を確認できます。受け取れる制度を調べる前に、必要な保険や貯蓄額を決めると、本来は公的保障で補える部分まで民間保険で備えてしまう可能性があります。

まずは、公的制度と勤務先独自の手当を確認しましょう。

給付金が振り込まれるまでの期間にも備える

出産手当金や育児休業給付金は、産休や育休に入ると同時に、自動的に毎月振り込まれるものではありません。勤務先や医療機関による証明をそろえ、申請後に審査を経て支給されます。そのため、給与が入らなくなってから、最初の給付金が振り込まれるまでに時間が空く可能性があります。

家計を見直すときは、給付金の合計額だけでなく、いつ振り込まれるのか?も確認しておくことが大切です。手元の貯蓄には、少なくとも次の費用をすぐに支払える余裕を持たせておきましょう。

  • 給付金が入るまでの生活費
  • 出産育児一時金を超える費用
  • 医療費や交通費
  • 赤ちゃん用品
  • 住民税
  • 急な支出への予備費

必要な金額は、世帯の生活費や勤務先の申請スケジュールによって異なります。一律に「何か月分あれば十分」と考えるのではなく、自分たちの家計で給付金のない期間を乗り切れる金額を計算してみましょう。

固定費は妊娠前に見直しておく

家計の負担を軽くするとき、毎日の食費を細かく削るより、毎月自動的に支払っている固定費を確認する方が、効果が長く続きやすくなります。たとえば、

  • 利用していないサブスクリプション
  • 必要以上に大きな通信プラン
  • ほとんど使っていない会員サービス
  • 重複している保険
  • 利用頻度に対して負担の大きい自動車費
  • 高い金利で借りているローン

などがないか確認してみましょう。月5,000円の固定費を減らせれば、年間では6万円です。

ただし、妊娠や出産を控えている時期に、生活に必要なものまで一度に削る必要はありません。「我慢して減らす」のではなく、「使っていないものや重複しているものを整理する」という考え方で進めるとよいでしょう。

今入っている保険の内容を確認する

新しい保険を検討する前に、現在加入している保険の内容を確認します。保険証券や契約者向けサイトなどで、次の項目を見てみましょう。

  • 何のための保険か
  • 誰が保障の対象か
  • 入院したときにいくら受け取れるか
  • 手術給付金はいくらか
  • 帝王切開は給付対象になるか
  • 死亡保険金はいくらか
  • 保障はいつまで続くか
  • 保険料はいつまで支払うか
  • 免責事項や保障されない条件
  • 保険金や給付金の受取人

保険に入っていることは覚えていても、何が起きたときに、いくら受け取れるのかまでは把握していないことがあります。
同じような保障の保険に複数加入していたり、反対に必要な保障がなかったりする可能性もあります。

正常分娩は医療保険の対象にならないことが多い

民間の医療保険に加入していても、正常分娩による入院は、一般的には入院給付金や手術給付金の対象になりません。一方、帝王切開などの異常分娩や、妊娠中の病気・医療処置による入院は、契約内容によって給付対象になることがあります。

生命保険文化センターも、給付例として帝王切開などの異常分娩による入院を挙げ、正常分娩は支払われない例として案内しています。ただし、帝王切開であれば、どの医療保険でも必ず給付されるとは限りません。

  • 加入した時期
  • 保障が始まった時期
  • 契約時についた特別条件
  • 入院や手術の定義
  • 過去の病歴や妊娠歴
  • 契約している特約

などによって異なります。現在加入している保険がある場合は、「帝王切開や切迫早産などは給付対象になりますか」と、保険会社へ確認しておきましょう。

妊娠中は保険の加入条件が変わることがある

妊娠中でも申し込める医療保険はあります。ただし、保険会社や商品、妊娠週数、健康状態によっては、

  • 妊娠や出産に関する入院・手術を一定期間保障しない
  • 子宮や卵巣などの部位を保障の対象外とする
  • 保険料が通常より高くなる
  • 加入できない

といった条件が付く場合があります。生命保険業界の資料でも、妊娠中に申し込める商品や妊娠・出産に関する保障を扱う商品がある一方、加入条件や保障内容は商品によって異なることが示されています。

そのため、将来の妊娠を考えていて医療保険が必要だと判断した場合は、妊娠前に検討することには意味があります。

ただし、「妊娠前なら必ず加入できる」「加入すれば出産費用がすべて戻る」ということではありません。保障内容、保険料、支払条件を確認し、自分たちの貯蓄と公的保障で対応できない部分があるかを考えましょう。

告知は正確に行う

生命保険や医療保険へ加入するときは、過去の病歴、通院、治療、検査、妊娠の状況などについて質問されることがあります。質問された事項には、事実を正確に伝える必要があります。

告知内容が事実と異なると、契約が解除されたり、入院や手術をしても給付金を受け取れなかったりする可能性があります。金融庁も、保険の種類によっては、健康状態などを事実のまま伝える告知義務があると案内しています。

「加入できなくなるかもしれない」と考えて、通院歴や検査結果を自分の判断で省略してはいけません。何を記入すべきか分からない場合は、保険会社や募集担当者へ確認しましょう。

今の保険をすぐに解約しない

保険を見直すと、新しい商品の方が保障内容や保険料の面でよく見えることがあります。しかし、新しい保険へ申し込んだからといって、必ず契約が成立するとは限りません。健康状態による審査の結果、加入できなかったり、特別条件が付いたりすることがあります。

先に現在の保険を解約すると、新しい保険へ入れず、保障がなくなる可能性があります。金融庁も、既存の契約を消滅させて新しい契約へ乗り換える場合、契約者に不利益が生じる可能性があるとしています。

保険を切り替える場合は、原則として新しい契約が成立し、保障開始日や条件を確認してから、現在の契約をどうするか判断しましょう。

子どもが生まれると死亡保障の必要性が変わる

夫婦だけで暮らしているときは、どちらかに万一のことがあっても、残された人が働いて生活を立て直せる場合があります。しかし、子どもが生まれると、生活費や教育費を長期間支える必要が生じます。そのため、妊娠や出産を機に、死亡保障を見直す意味があります。

ただし、必要な死亡保険金は、全家庭で同じではありません。生命保険文化センターでは、万一の際に必要となる生活費、教育費、住居費などの支出から、遺族年金、勤務先の保障、預貯金、配偶者の収入などを差し引いた不足額を、必要保障額の目安とする考え方を示しています。考え方を式にすると、次のようになります。

将来必要となるお金- 将来入ってくるお金や現在の資産= 民間保険などで備えたい不足額

最初から「子どもが生まれるから3,000万円必要」と決めるのではなく、家庭ごとの不足額を計算することが大切です。

遺族年金などの公的保障も確認する

家計を支えている人に万一のことがあった場合、条件を満たせば遺族基礎年金や遺族厚生年金などを受け取れる可能性があります。

遺族基礎年金は、原則として子どものいる配偶者、または子どもが対象です。支給額や受給条件は、子どもの人数や加入していた年金制度などによって異なります。勤務先によっては、死亡退職金、弔慰金、団体保険などが用意されていることもあります。死亡保障を決める前に、次の金額を確認しておきましょう。

  • 遺族年金
  • 勤務先の死亡退職金や弔慰金
  • 現在の預貯金
  • 既存の生命保険
  • 住宅ローンの団体信用生命保険
  • 残された家族が得られる収入

公的保障や会社の制度を含めずに生命保険を設計すると、保障が重複し、毎月の保険料が家計を圧迫することがあります。

住宅ローンがある場合は団体信用生命保険を確認する

住宅ローンを利用している場合は、団体信用生命保険の保障内容も確認しましょう。借り入れをしている人が死亡した場合などに、団体信用生命保険によって住宅ローン残高が返済される契約であれば、残された家族の住居費負担は大きく変わります。ただし、

  • 夫婦のどちらがローンを借りているか
  • ペアローンか
  • 連帯債務か
  • それぞれの借入額はいくらか
  • どのような場合に保障されるか

によって取り扱いが異なります。

「住宅ローンがなくなるから死亡保障は不要」と単純に判断せず、ローン契約と団体信用生命保険の内容を確認したうえで、残る生活費や教育費を考えましょう。

収入が多い人だけを保障すればよいとは限らない

死亡保障や医療保障を考えるとき、収入の多い人だけに注目しがちです。しかし、家事や育児を主に担っている人に万一のことがあった場合も、家計には影響があります。

残された人が働き方を変えたり、保育、家事代行、食事宅配などのサービスを利用したりする必要が生じるかもしれません。夫婦それぞれについて、

  • 収入がなくなった場合
  • 家事や育児を担えなくなった場合
  • 長期間働けなくなった場合

に、家計へどのような影響があるかを考えてみましょう。保障額を同じにする必要はありませんが、「収入が少ないから保障は一切不要」と決めつけないことが大切です。

教育費のための保険は急いで決めなくてもよい

子どもが生まれると、学資保険など、教育費を準備する商品を勧められることがあります。計画的に積み立てられる点はメリットですが、長期間にわたって保険料を支払い続ける必要があります。

途中で解約すると、支払った保険料より受け取る金額が少なくなる商品もあります。出産直後は、今後の収入や保育料、働き方、住居費などがまだ決まっていないことも多いでしょう。まずは、

  • 出産後の生活費
  • 緊急時に使える現金
  • 夫婦の死亡保障
  • 医療保障
  • 借入金の返済

を確認し、そのうえで教育費の積立方法を検討しても遅くありません。

教育費は、保険だけでなく、預貯金やその他の金融商品を使って準備する方法もあります。「子どもが生まれたら、すぐに学資保険へ入らなければならない」と焦らず、家計に合った方法を選びましょう。

家計と保険は夫婦で共有する

家計や保険の管理を、夫婦のどちらか一人だけが行っている家庭もあります。しかし、妊娠中の体調不良や入院、出産などにより、いつも管理している人が手続きをできないことがあります。少なくとも、次の情報は夫婦で共有しておきましょう。

  • 銀行口座
  • 毎月の生活費
  • クレジットカードの支払日
  • 住宅ローンやその他の借入金
  • 加入している保険
  • 保険証券の保管場所
  • 保険金や給付金の請求先
  • 公共料金の支払い方法
  • 勤務先の連絡先
  • 緊急時に使える預貯金

パスワードを無防備に書き残すのではなく、必要な人が必要なときに確認できる、安全な管理方法を決めておきましょう。

妊娠前の家計見直しチェックリスト

妊娠や出産を考え始めたら、次の項目を確認してみましょう。

家計について

  • 毎月の手取り収入を把握している
  • 毎月の固定費と生活費を把握している
  • 産休・育休中の収入を試算している
  • 給付金が振り込まれる時期を確認している
  • 出産時の自己負担額を確認している
  • 給付金が入るまでの生活費を用意している
  • 住民税の支払いを見込んでいる
  • 使っていない固定費を整理している

保険について

  • 現在加入している保険を一覧にしている
  • 入院・手術給付金の内容を確認している
  • 帝王切開などが保障されるか確認している
  • 死亡保険金の金額と受取人を確認している
  • 公的保障や勤務先の保障を確認している
  • 保障の重複がないか確認している
  • 新しい保険の成立前に既契約を解約していない

すべてを一度に整える必要はありません。まずは保険証券と給与明細、銀行口座の明細をそろえるところから始めてみましょう。

不安だから増やすのではなく、必要な備えを選ぼう

妊娠や出産を考えると、これまでにはなかった心配が増えることがあります。自分の体調、出産費用、産休中の収入、子どもの教育費、家族に万一のことがあった場合の暮らし。すべてに備えようとすると、いくらお金や保険があっても足りないように感じてしまうかもしれません。

けれど、保険の目的は、不安をすべてなくすことではありません。公的保障や貯蓄だけでは支えきれない、大きな経済的損失に備えることです。

  1. 現在の家計と公的な支援を確認する。
  2. 手元の貯蓄で対応できる範囲を考える。
  3. 残った不足分だけを民間保険で補う。

この順番で考えれば、必要以上に保険料を増やさず、新しい家族との生活に使えるお金も残しやすくなります。

家計や保険の見直しは、これから生まれる子どものためだけに行うものではありません。子どもを迎える家族が、無理をせず、安心して毎日を過ごすための準備でもあります。

お金のことを一つずつ整えながら、新しい命との暮らしを楽しみに待てる時間も、大切にしていきましょう。

参考にした主な公的・公式資料

  • 金融庁「公的保険ポータル」
  • 金融庁「保険を契約している方へ」
  • 厚生労働省「育児休業等給付について」
  • 厚生労働省「産休・育休中の経済的支援 かんたん試算ツール」
  • こども家庭庁「妊産婦への伴走型相談支援と経済的支援の一体的実施」
  • 生命保険文化センター「生命保険の加入金額の目安は?」
  • 生命保険文化センター「保険金・給付金の受取り」

 

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