出産前後に仕事を休むことになったとき、気になるのが産休中の収入です。会社の制度によっては、産休中に給与が支払われないこともあります。
収入がなくなる一方で、出産費用や赤ちゃんを迎える準備など、家計から出ていくお金は増えていきます。そのような産休中の生活を支えるために、健康保険から支給されるのが「出産手当金」です。
出産手当金は、出産費用に充てる「出産育児一時金」とは異なり、仕事を休んだことによる収入の減少を補うための制度です。
この記事では、出産手当金を受け取れる人、支給される期間、金額の計算方法、申請手続きについて、分かりやすく解説します。
※本記事は、2026年7月16日時点の制度をもとに作成しています。加入している健康保険によって、申請方法や必要書類が異なる場合があります。実際に申請するときは、勤務先や加入している健康保険へ最新情報をご確認ください。
出産手当金とは?
出産手当金は、健康保険の被保険者本人が、出産のために会社を休み、その期間に給与を受け取れなかった場合に支給されるお金です。
産休中の生活費を支え、収入がなくなることへの不安を軽くする役割があります。出産手当金を支給するのは会社ではなく、本人が加入している健康保険です。
会社員で協会けんぽに加入している場合は協会けんぽ、健康保険組合に加入している場合は、その健康保険組合へ申請します。
出産育児一時金とは別の制度
名前が似ているため混同しやすいのですが、「出産手当金」と「出産育児一時金」は目的が異なります。
出産手当金: 産休中に給与を受け取れない期間の生活を支えるためのお金です。本人の給与をもとに支給額が計算されます。
出産育児一時金: 分娩や入院など、出産にかかる費用の負担を軽くするためのお金です。子ども一人につき原則50万円が支給されます。それぞれ受給条件を満たしていれば、出産手当金と出産育児一時金の両方を受け取れます。
出産育児一時金については、「出産費用はいくら?出産育児一時金と自己負担額をわかりやすく解説」で詳しく紹介しています。
育児休業給付金とも別の制度
出産手当金と育児休業給付金も、別の制度です。
出産手当金は、主に出産前後の産休期間を対象として、健康保険から支給されます。一方、育児休業給付金は、原則として産後休業が終わった後の育児休業期間を対象として、雇用保険から支給されます。
出産する本人の場合、一般的には次のような流れになります。
産前休業・産後休業→ 出産手当金
産後休業終了後の育児休業→ 育児休業給付金
産休から育休へ移ると、給付を行う制度や支給額の計算方法も変わります。
出産手当金を受け取れる人
出産手当金を受け取るには、基本的に次の条件を満たす必要があります。
- 勤務先の健康保険に被保険者本人として加入している
- 出産のために仕事を休んでいる
- 休んだ期間について給与が支払われていない、または給与が出産手当金より少ない
協会けんぽは、出産手当金の対象を健康保険の「被保険者本人」としています。正社員だけに限定された制度ではありません。パートタイマーや契約社員などでも、勤務先の健康保険へ本人として加入し、その他の条件を満たしていれば対象になる可能性があります。
雇用形態ではなく、健康保険の加入状況を確認することが大切です。
配偶者の扶養に入っている人は対象外
配偶者などの健康保険の「被扶養者」になっている人は、出産手当金の対象ではありません。出産育児一時金は被扶養者が出産した場合にも支給されますが、出産手当金は、働いている被保険者本人の収入減少を補う制度だからです。
自分の保険証や資格情報のお知らせなどに「被保険者」と記載されているか、「被扶養者」と記載されているかを確認してみましょう。
自営業やフリーランスは原則として対象外
自営業者やフリーランスなど、市区町村の国民健康保険に加入している人には、会社員の健康保険と同じ出産手当金が全国一律に用意されているわけではありません。そのため、一般的には出産手当金の対象外です。
ただし、加入している国民健康保険組合などによっては、独自の給付が設けられている場合があります。自営業やフリーランスの人は、加入している保険の窓口へ確認してみましょう。
出産手当金が支給される期間
出産手当金の対象になるのは、原則として次の期間です。
- 出産予定日以前42日から
- 出産日の翌日以降56日まで
双子や三つ子などの多胎妊娠の場合は、出産予定日以前98日から対象になります。
単胎妊娠で予定日に出産し、その全期間を休んだ場合は、産前42日と産後56日を合わせた98日分が支給対象になります。ただし、対象期間内であっても、実際に仕事をした日は支給されません。出産のために仕事を休み、給与が支払われなかった日が対象です。
出産予定日より遅れた場合はどうなる?
出産が予定日より遅れた場合は、予定日から実際の出産日までの日数も、出産手当金の支給対象になります。
たとえば、出産予定日から5日後に出産した場合は、
- 産前42日
- 予定日を過ぎた5日
- 産後56日
を合わせた、最大103日分が対象になります。予定日を過ぎると、その分だけ産前の休業期間が長くなりますが、支給対象期間も延びる仕組みです。
出産手当金はいくらもらえる?
出産手当金の1日当たりの支給額は、原則として次の式で計算します。
支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均額÷30日×3分の2
ここで使われるのは、毎月の給与額そのものではなく、健康保険料を計算するときに使われる「標準報酬月額」です。
基本給だけでなく、通勤手当や残業手当などを含む給与を一定の幅に区分した金額が標準報酬月額です。そのため、「現在の月給のちょうど3分の2」が支給されるとは限りません。
標準報酬月額が30万円の場合の計算例
支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均が30万円だった場合を考えてみましょう。1日当たりの支給額は、次のように計算します。
30万円÷30日×3分の2=約6,667円
単胎妊娠で予定日に出産し、98日すべてが支給対象となった場合は、約6,667円×98日=約65万3,000円
が一つの目安になります。ただし、実際の金額は、標準報酬月額、休んだ日数、給与の支払い状況などによって異なります。
厚生労働省では、出産手当金などを確認できる「産休・育休中の経済的支援 かんたん試算ツール」を公開しています。
健康保険の加入期間が12か月未満の場合
出産手当金の支給開始日までに、現在の健康保険へ加入していた期間が12か月に満たない場合は、通常とは異なる方法で計算します。
協会けんぽの場合は、次のうち低い金額を使います。
- 支給開始日以前の、継続して加入していた各月の標準報酬月額の平均
- 協会けんぽの全被保険者の標準報酬月額の平均額
2025年4月1日以降に支給を開始する場合、協会けんぽが計算に用いる全被保険者の平均額は32万円です。転職後すぐに産休へ入る場合などは、勤務先や健康保険へ計算方法を確認しておくと安心です。
産休中に給与が支払われる場合
産休中に会社から給与が支払われる場合、必ず出産手当金を受け取れないわけではありません。会社から支払われる1日当たりの給与が、出産手当金の1日当たりの金額より少なければ、その差額が支給されます。
一方、会社から支払われる給与が出産手当金以上であれば、その日は出産手当金が支給されません。
たとえば、出産手当金の日額が6,667円で、会社からの日額相当の給与が4,000円だった場合は、差額の約2,667円が支給されるイメージです。
勤務先に独自の産休手当や有給制度がある場合は、出産手当金との調整方法を確認しましょう。
有給休暇を使った日はどうなる?
産前休業に入る前後に、有給休暇を利用する人もいます。有給休暇を使った日は、通常、会社から給与が支払われます。その給与の日額が出産手当金の日額以上であれば、その日の出産手当金は支給されません。
ただし、有給休暇を使うことで、出産手当金より多い給与を受け取れることもあります。有給休暇をいつ使うかは、
- 産休前の体調
- 残っている有給休暇の日数
- 会社から支給される給与
- 出産手当金の日額
- 復職後に残しておきたい日数
などを考えて決めるとよいでしょう。
出産手当金の申請方法
出産手当金を受け取るには、加入している健康保険へ申請書を提出します。協会けんぽの場合は、「健康保険出産手当金支給申請書」を使用します。申請書には、主に次の内容を記入します。
- 申請者本人が記入する部分
- 勤務先が給与の支払状況などを証明する部分
- 医師または助産師が出産日などを証明する部分
必要な証明をそろえたうえで、勤務先を通して提出するか、本人から健康保険へ提出します。提出方法は勤務先や健康保険によって異なります。産休に入る前に、人事や総務の担当者へ、「出産手当金の申請書は、いつ、誰に提出すればよいですか?」と確認しておきましょう。
申請は出産後にまとめて行うのが一般的
出産手当金は、産前分と産後分をまとめて申請することも、複数回に分けて申請することもできます。分けて申請する場合は、その都度、勤務先による給与支払状況の証明が必要です。
医師または助産師の証明については、1回目の申請を出産後に行い、出産日などを確認できた場合、2回目以降は省略できることがあります。まとめて申請する場合は手続きの回数を減らせますが、産後休業が終わるまで申請を待つため、支給までの期間が長くなります。
一方、産前分と産後分を分ければ、比較的早い段階で一部を申請できますが、勤務先の証明などが複数回必要になります。家計の状況や勤務先の手続き方法を確認して決めましょう。
すぐに振り込まれるとは限らない
出産手当金は、毎月の給与のように、産休へ入ると自動的に決まった日に振り込まれるものではありません。出産後に申請書を提出し、健康保険による審査が終わってから支給されます。
書類の提出時期や記入漏れ、勤務先の給与締日、健康保険の審査状況などによって、振り込みまでの期間は変わります。そのため、産休に入ってから最初の出産手当金が振り込まれるまで、給与も給付金も入らない期間が生じる可能性があります。
産休前には、少なくとも数か月分の生活費を手元に残しておくと安心です。
申請期限は原則2年
出産手当金を受け取る権利は、支給対象となった日ごとに、その翌日から2年で時効になります。2年を過ぎた日については、原則として申請できなくなります。
出産直後は、赤ちゃんのお世話や各種手続きで忙しくなります。勤務先が手続きを進めてくれると思い込み、申請書の提出を忘れないようにしましょう。
退職後も受け取れる場合がある
出産を機に退職した場合でも、一定の条件を満たせば、退職後の期間について出産手当金を受け取れることがあります。協会けんぽでは、主に次の条件があります。
- 退職日までに、継続して1年以上、健康保険の被保険者だった
- 退職時点で出産手当金を受けているか、受けられる状態だった
- 退職日に出勤していない
退職日に出勤すると、退職後の継続給付を受けられないため、特に注意が必要です。また、退職後に配偶者の扶養へ入った場合や国民健康保険へ切り替えた場合でも、在職中の健康保険からの継続給付の条件を満たせば、出産手当金を受け取れる可能性があります。
退職を予定している場合は、退職日を決める前に勤務先と健康保険へ確認しましょう。
出産手当金に所得税はかからない
出産手当金は非課税です。そのため、受け取った出産手当金に所得税はかからず、配偶者控除などを判定するときの合計所得金額にも含まれません。
また、出産手当金は医療費を補うためのお金ではなく、休業中の収入を補うためのお金です。そのため、医療費控除を計算するときに、妊婦健診費や出産費用から差し引く必要はありません。
出産育児一時金は医療費から差し引きますが、出産手当金は差し引かないという違いがあります。
産休中の社会保険料は別の手続きで免除される
出産手当金を受け取る手続きとは別に、産前産後休業中は、勤務先が手続きを行うことで健康保険料と厚生年金保険料が免除されます。
本人負担分だけでなく、会社負担分も免除され、免除期間も将来の年金額を計算するときには保険料を納めた期間として扱われます。詳しくは、「産休・育休中の社会保険料はどうなる?」で解説しています。
産休に入る前に確認しておきたいこと
出産手当金は、産休中の家計を支えてくれる大切な制度です。ただし、産休へ入っただけで自動的に支給されるわけではありません。産休前に、次の点を確認しておきましょう。
- 自分が健康保険の被保険者本人か
- 産休中に会社から給与が支払われるか
- 出産手当金の申請書をいつ受け取れるか
- 勤務先を通して申請するのか
- 産前分と産後分を分けて申請できるか
- 支給されるまでの生活費を準備できているか
- 退職予定がある場合、継続給付の条件を満たすか
出産手当金は、産休中の給与を完全に置き換えるものではありません。けれど、どのくらい受け取れるのか、いつごろ申請するのかをあらかじめ知っておけば、収入が一時的に少なくなる期間にも備えやすくなります。
新しい命を迎える時期に、お金の心配をすべてなくすことは難しいかもしれません。それでも、利用できる制度を一つずつ確かめておくことで、見えなかった不安は、今から準備できることへ変わっていきます。
産休中の家計にも少し余白をつくり、これから始まる家族の暮らしを、安心して迎える準備につなげていきましょう。
参考にした主な公的資料
- 全国健康保険協会「出産育児一時金・出産手当金」
- 全国健康保険協会「出産で会社を休んだとき(出産手当金)」
- 全国健康保険協会「健康保険出産手当金支給申請書」
- 厚生労働省「出産手当金」
- 厚生労働省「産休・育休中の経済的支援 かんたん試算ツール」
- 国税庁「配偶者控除」
- 国税庁「医療費控除の対象となる出産費用の具体例」
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