赤ちゃんが生まれた直後は、母親の身体がまだ十分に回復していない時期です。授乳やおむつ替えだけでなく、食事、洗濯、買い物、役所への手続きなど、これまでとはまったく違う生活が始まります。
そんな時期だからこそ、「自分も育休を取りたい」と考える父親も増えているでしょう。
一方で気になるのが、お金のことです。「育休を取ったら給料はゼロになる?」「産後パパ育休では、いくらもらえる?」「手取り10割になる制度があると聞いたけれど、本当?」
父親が育休を取得した場合、一定の条件を満たせば、雇用保険から出生時育児休業給付金や育児休業給付金を受け取ることができます。さらに2025年4月からは、出生直後の一定期間について給付率を13%上乗せする出生後休業支援給付金も始まりました。
この記事では、父親が育休を取ったときに受け取れるお金と、産後パパ育休の仕組みについて、順番に分かりやすく解説します。
※本記事は、2026年8月15日時点で確認できる厚生労働省・日本年金機構の公表情報をもとに作成しています。2026年8月1日から育児休業等給付の上限額や一部の申請手続きが変更されています。実際に取得・申請するときは、勤務先やハローワークで最新情報をご確認ください。
父親が使える育休には大きく2つある
まず知っておきたいのが、父親が利用できる休業には、産後パパ育休と、通常の育児休業があることです。
産後パパ育休
正式には「出生時育児休業」といい、原則として、子どもが生まれてから8週間以内に、合計28日まで取得できます。2回に分けて取ることもでき、通常の育児休業とは別の制度です。
通常の育児休業
原則として、子どもが1歳になるまで取得できる育児休業で、こちらも2回に分けて取得できます。一定の条件を満たせば、1歳6か月、さらに2歳まで延長できる場合があります。
つまり父親は、出生直後は産後パパ育休→いったん仕事へ復帰→後から通常の育児休業という取り方もできます。
産後パパ育休は出生後8週間以内に28日まで
産後パパ育休は、赤ちゃんが生まれた直後に父親などが育児へ関われるよう設けられた制度です。原則として、子どもの出生後8週間以内に、通算4週間・28日まで取得できます。28日を一度に取る必要はなく、2回に分けることもできます。たとえば、
1回目:出産・退院前後に14日
2回目:里帰りから自宅へ戻る時期に14日
という取り方も考えられます。ただし、2回に分けて取得する場合は、原則として最初の申出の際に2回分をまとめて申し出ます。
産後パパ育休は原則2週間前までに申し出る
産後パパ育休を取得するときは、原則として休業開始予定日の2週間前までに勤務先へ申し出ます。会社と労働者側で一定の労使協定を結んでいる場合は、申出期限が最大1か月前となることがあります。出産予定日より早く赤ちゃんが生まれた場合などには、一定の特例もあります。
出産日は予定どおりになるとは限らないため、父親も出産予定日が近づく前に、勤務先へ取得の意向を伝えておくと安心です。
産後パパ育休でも会社から給料が出るとは限らない
「育休」という名称から、「会社が休業中の給料を払ってくれる制度」と思うかもしれません。しかし、育児・介護休業法そのものに、休業期間中の給与を会社が必ず支払わなければならないという仕組みがあるわけではありません。
会社から給与が支給されるかどうかは、勤務先の就業規則や独自制度によって異なります。そこで、一定の条件を満たす人の収入を支えるのが、雇用保険から支給される給付金です。
産後パパ育休でもらえる「出生時育児休業給付金」
雇用保険の被保険者が産後パパ育休を取得し、一定の条件を満たした場合に支給されるのが、出生時育児休業給付金です。支給額は原則として、
休業開始時賃金日額 × 休業日数 × 67%
で計算し、支給対象となる日数は最大28日です。休業開始時賃金日額は、原則として育休開始前6か月間に支払われた賃金の合計を180で割って計算します。基本給だけでなく、通勤手当や残業手当なども含まれますが、賞与は含まれません。
月給30万円なら28日で約18万7,600円
育休前6か月の平均賃金が月額30万円だった場合を考えてみましょう。休業開始時賃金日額は、おおよそ、
30万円 × 6か月 ÷180日=1万円
です。産後パパ育休を28日取得すると、1万円 × 28日 ×67%=18万7,600円となります。これは厚生労働省が示している計算例と同じです。
なお、「月給30万円の67%だから20万1,000円では?」と思うかもしれません。通常の育児休業給付金は30日を一つの目安として計算しますが、産後パパ育休は最大28日だからです。
さらに13%上乗せされる「出生後休業支援給付金」
2025年4月から、出生直後に育休を取得する人への経済的支援が強化されました。一定の条件を満たすと、67%の出生時育児休業給付金などに加えて、
休業開始時賃金日額 × 対象日数 ×13%
の出生後休業支援給付金が支給されます。対象となるのは最大28日です。つまり、67%+13%=80%となります。
月給30万円なら合計22万4,000円
先ほどと同じく、休業開始時賃金日額が1万円の人が28日間の産後パパ育休を取得した場合で考えてみましょう。
出生時育児休業給付金
1万円×28日×67%=18万7,600円
出生後休業支援給付金
1万円×28日×13%=3万6,400円
合計 18万7,600円+3万6,400円=22万4,000円
休業前賃金28万円相当の80%になります。
なぜ「手取り10割相当」といわれるの?
給付率は80%なのに、「手取り10割相当」と説明されているのを見たことがあるかもしれません。これは、給与と給付金では税金や社会保険料の扱いが異なるためです。
育児休業等給付は非課税です。また、一定の要件を満たす育児休業中は、健康保険料と厚生年金保険料が免除されます。さらに、勤務先から給与が支給されなければ雇用保険料の負担もありません。こうした違いを加味して、厚生労働省は給付率80%を「手取り10割相当」と説明しています。
ただし、休業前の手取り額や住民税、勤務先からの給与の有無などは人によって異なります。「すべての人が休業前とまったく同じ金額を手にできる」という意味ではありません。
※ここは注意|父親の場合、妻も14日育休を取る必要があるとは限らない
出生後休業支援給付金について、「夫婦ともに14日以上育休を取れば13%上乗せされる」と説明されることがあります。制度の基本的な考え方としてはそのとおりですが、出産直後の父親については大切な例外があります。
出生後休業支援給付金では、原則として本人が対象期間内に14日以上の育児休業を取得し、配偶者も一定期間に14日以上の育児休業を取得することが要件となります。しかし、配偶者が産後休業中である場合は、配偶者の育児休業を要件としません。
通常、出産した母親は出産翌日から8週間、産後休業の期間にあります。そのため、実子が生まれた父親が出生直後に14日以上の産後パパ育休などを取得する場合は、母親が別に14日以上の「育児休業」を取らなければ13%の上乗せを受けられない、というわけではありません。これは非常に誤解しやすいところです。
勤務先から「夫婦とも14日必要」と説明された場合も、自分たちのケースが配偶者要件の例外に当てはまらないか確認してみましょう。
配偶者が専業主婦でも対象になる可能性がある
配偶者が育児休業を取得できない一定の場合にも、配偶者側の14日以上の育休は求められません。たとえば、
- 配偶者がいない
- 配偶者が専業主婦・専業主夫などの無業者
- 配偶者が自営業者やフリーランス
- 配偶者が産後休業中
- 配偶者が雇用保険の育児休業給付を受けられない一定の場合
などです。つまり、「妻が会社員ではないから、出生後休業支援給付金は使えない」とも限りません。個別の条件がありますので、ハローワークや勤務先へ確認しましょう。
13%上乗せを受けるには父親自身が14日以上休む
配偶者要件に例外があっても、父親本人の休業日数については注意が必要です。
出生後休業支援給付金を受け取るには、対象となる出生直後の期間に、出生時育児休業給付金または育児休業給付金が支給される休業を通算14日以上取得することが基本的な要件です。
たとえば、産後パパ育休を5日だけ取得した場合、通常の出生時育児休業給付金の要件を満たせば67%相当の給付を受けられる可能性はありますが、13%上乗せの出生後休業支援給付金については、14日以上という要件を満たしません。
「何日休むか」を決めるときには、仕事の都合だけでなく、給付制度についても確認しておくとよいでしょう。
2026年8月現在の支給上限額
育児休業等給付には上限があります。2026年8月1日から支給限度額が改定されました。産後パパ育休について、28日取得した場合の主な上限は、
出生時育児休業給付金(67%)31万290円
出生後休業支援給付金(13%)6万205円
です。給与が高い場合でも、休業前賃金の67%や13%が際限なく支給されるわけではありません。上限額は毎年8月に変更される場合があります。
産後パパ育休の後に通常の育休も取れる
産後パパ育休を28日取得したら、それで父親の育休が終わるわけではありません。産後パパ育休は、1歳までの通常の育児休業とは別の制度です。たとえば、
出生直後産後パパ育休を28日取得→その後、いったん職場復帰→さらに数か月後、通常の育児休業を3か月取得
ということも可能です。通常の育児休業も2回まで分割取得できるため、家庭の状況に合わせて組み合わせることができます。
通常の育休では「育児休業給付金」がもらえる
産後パパ育休ではなく、通常の育児休業を取得した場合は、育児休業給付金が支給されます。支給率は、
育休開始から180日目まで:67%
181日目以降:50%
です。ここで父親が知っておきたいのが、産後パパ育休で出生時育児休業給付金を受け取った日数も、67%が支給される180日へ通算されることです。
たとえば、産後パパ育休で28日分の給付を受けた場合、その後の通常の育児休業では、67%の残りは原則152日分となり、その後は50%へ移ります。
父親は出生直後から通常の育児休業を選ぶこともできる
父親が必ず産後パパ育休を使わなければならないわけではありません。子どもの出生後から、産後パパ育休ではなく通常の育児休業を取得することもできます。
厚生労働省も、妻の出産日から半年間休むような場合に、出生時育児休業給付金を申請せず、育児休業給付金だけを申請することが可能と案内しています。
短期間で2回に分けたいのか。
出生直後から長期間休みたいのか。
途中で一度仕事へ戻りたいのか。
家族の希望に合わせて制度を選びましょう。
夫婦で育休を取ると「パパ・ママ育休プラス」もある
両親とも育児休業を取得する場合には、「パパ・ママ育休プラス」という制度もあります。
一定の要件を満たすと、通常は子どもが1歳になるまでの育休期間を、1歳2か月になるまで延長して取得できます。ただし、父母それぞれが取得できる休業期間そのものには上限があります。
夫婦が同時に長く休むだけでなく、母親が先に育休を取り、その後、父親が交代するといった使い方もできます。
産後パパ育休中に少しだけ働くこともできる
通常の育児休業は、原則として就業しないことを前提としています。一方、産後パパ育休では、勤務先に労使協定がある場合、本人が希望し、会社との間で合意すれば、一定の範囲で働くことができます。
出生時育児休業給付金の要件上、28日間の産後パパ育休の場合は、就業日数が最大10日以内、10日を超える場合は就業時間が80時間以下であることが一つの基準です。休業期間が14日なら、最大5日、または一定の時間数までとなります。
ただし、「育休だけれど、仕事が忙しいから会社から呼ばれたら働く」という仕組みではありません。本人が就業を申し出、会社が日時を提示し、本人が同意するという手続きが必要です。
育休中に給与が出る場合は給付金が減ることがある
産後パパ育休中に会社から給与が支払われる場合、その金額によって出生時育児休業給付金が減額されることがあります。休業期間を対象として支払われた賃金が、休業前賃金相当額の80%以上になると、出生時育児休業給付金は支給されません。
80%未満でも、金額によって調整される場合があります。会社独自の「育児休業手当」などがある場合は、会社から支払われる金額と、雇用保険の給付金がどのように調整されるのか確認しておきましょう。
社会保険料も免除される場合がある
会社の健康保険と厚生年金に加入している人が育児休業を取得すると、一定の要件を満たすことで社会保険料が免除されます。短期間の育休の場合でも、開始月と終了日の翌日が属する月が同じ場合に、その月に14日以上育休を取得すれば、月額の健康保険料・厚生年金保険料が免除されます。
また、休業期間が月末をまたぐ場合などは、別の免除要件があります。賞与にかかる社会保険料は条件が異なり、賞与月の月末を含んだ連続1か月を超える育児休業等が必要です。
28日間の産後パパ育休を取れば、必ず賞与の社会保険料まで免除されるというわけではありません。
父親も育休中の住民税は原則支払う
育児休業等給付は非課税ですが、すでに前年の所得をもとに決まっている住民税がなくなるわけではありません。育休中に給与がなくなる場合でも、前年所得に対する住民税の支払いは続くことがあります。
そのため、給付金が80%あるから家計は完全に同じとは考えず、育休期間中に支払う住民税や住宅ローン、家賃なども含めて家計を確認しておきましょう。
給付金は勤務先を通じて申請するのが一般的
出生時育児休業給付金や出生後休業支援給付金は、一般的には勤務先が必要な書類をそろえ、ハローワークへ申請します。
出生後休業支援給付金は、原則として出生時育児休業給付金または育児休業給付金とあわせて申請します。
2026年8月1日からは、出生時育児休業給付金の申請に関する一部の確認方法も見直されています。出産前に勤務先へ、
「産後パパ育休の申出はどこへ出しますか」
「出生時育児休業給付金は会社で申請してもらえますか」
「出生後休業支援給付金も同時に申請されますか」
と確認しておくと安心です。
自営業・フリーランスの父親は対象になる?
出生時育児休業給付金や育児休業給付金は、雇用保険の被保険者を対象とする制度です。そのため、自営業者やフリーランスなど、雇用保険に加入していない人は原則として対象になりません。
会社員と自営業では、利用できる子育て支援制度が異なります。児童手当や自治体独自の子育て支援など、働き方にかかわらず利用できる制度も合わせて確認しましょう。
「取れるか」だけでなく「いつ取るか」を夫婦で話しておこう
父親の育休というと、「会社が休ませてくれるか」「何日なら仕事に迷惑をかけないか」という話になりがちです。けれど、家庭側から考えると、もう一つ大切なのが、いつ父親が家にいると一番助かるのかです。たとえば、
- 出産・入院中
- 母子が退院した直後
- 里帰りから自宅へ戻るとき
- 上の子どもの保育園や学校が休みになる時期
- 母親が体調を崩しやすい時期
- 母親の育休終了前後
など、家庭によって必要な時期は違います。産後パパ育休を2回に分けられることや、通常の育児休業も別に取得できることを知っていれば、「とりあえず出生直後に2週間だけ」という選択肢だけではなくなります。
父親の育休は「母親を手伝う休み」ではない
子どもが生まれた直後は、母親の身体が出産から回復する大切な時期です。父親が家事を担い、母親が身体を休められる環境をつくることは、とても大切です。
けれど、父親の育休は、「母親の育児を手伝うためだけの休み」ではありません。父親自身が赤ちゃんのお世話を覚え、子どもとの関係を築き、夫婦でこれからの生活をつくっていくための時間でもあります。
以前であれば、「育休を取りたいけれど、収入が減るから難しい」と諦めていた家庭もあったでしょう。現在は、出生時育児休業給付金に加え、条件を満たせば出生後休業支援給付金も利用でき、出生直後の最大28日間について給付率80%、厚生労働省の説明では手取り10割相当となる仕組みが整えられています。
制度があるから必ず長く休まなければならない、ということではありません。大切なのは、仕事だけを基準に決めるのではなく、家族にとって必要な時間も含めて考えること。
お金の制度を知っておけば、父親が育休を取ることも、より現実的な選択肢になります。
新しい命を迎えた最初の時間を、家族の誰か一人だけに任せるのではなく、家族みんなで始める。そのためにも、出産前から「どの制度を使い、いつ休むか」を夫婦で話し合っておきましょう。
参考にした主な公的資料
- 厚生労働省「産後パパ育休」
- 厚生労働省「Q&A~育児休業等給付~」
- 厚生労働省「育児休業等給付の内容と支給申請手続」
- 厚生労働省「出生後休業支援給付金」
- 厚生労働省「令和8年8月1日から支給限度額が変更になります」
- 日本年金機構「育児休業等を取得し、保険料の免除を受けようとするとき」
- 厚生労働省「パパ・ママ育休プラス」
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